AzureのPII検出機能とは?情シスセキュリティ担当が活用シナリオを徹底解説

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筆者名:城咲子(じょう せきこ)

情報システム部でセキュリティを担当している城咲子です。セキュリティに関する情報や日常の出来事(グチやボヤキ笑)などを発信していきます。(情報処理安全確保支援士/登録セキスペ/CISSP)

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こんにちは。東証プライム上場企業で情報システム部のセキュリティ担当をしている城咲子です。

私の信条は「自分が動くのではなくルールを変えて人と組織を動かす」こと。日々の業務では、テクノロジーを活用して、セキュアで効率的な仕組みを構築することに注力しています。

さて、企業が扱うデータが爆発的に増加する現代において、メールやチャット、議事録などの「非構造化データ」に紛れ込んだ個人を特定できる情報(PII: Personally Identifiable Information)の管理は、非常に重要な経営課題です。意図しない情報漏洩は、企業の信頼を根底から揺るがしかねません。

今回は、こうした課題に対する強力なソリューションとなり得る、Azure Cognitive Service for Language の「PII検出機能」について、情報セキュリティの専門家(CISSP, 登録セキスペ)の視点から、その概要と具体的な活用シナリオを解説します。

Azure Cognitive Service for Language の「PII検出機能」とは?

一言でいうと、テキストデータの中から個人情報(PII)を自動で識別し、分類してくれるAIサービスです。

Microsoftが提供するAzure AIサービス群の一つで、自然言語処理技術を用いて、文章の中から「氏名」「住所」「電話番号」「クレジットカード番号」といった、あらかじめ定義されたカテゴリの情報を高精度で検出します。

従来、人手で確認・マスキングしていた作業を自動化できるため、コンプライアンス遵守と業務効率化の両立が可能になります。

検出できる主なPIIエンティティカテゴリ

この機能がどれほど強力かを理解するために、検出できるPIIのカテゴリの一部を見てみましょう。ユーザー様から提供いただいた情報にあるカテゴリはもちろん、ビジネスで特に重要となるカテゴリも多数サポートされています。

カテゴリ名 説明 具体例
Person 人名。フルネーム、姓、名を検出します。 「山田 太郎」「Mr. Smith」
PhoneNumber 電話番号。国番号を含む様々な形式に対応します。 「090-1234-5678」「+1-800-123-4567」
Age 年齢。数値と単位(歳、才など)を検出します。 「35歳」「twenty years old」
DateTime 日付と時刻。絶対的な日付や相対的な表現を検出します。 「2025年10月8日」「来週の火曜日」
Email 電子メールアドレス。 「contact@example.com」
Address 住所。郵便番号、都道府県、市区町村、番地などを検出します。 「東京都千代田区丸の内1-1-1」
CreditCardNumber クレジットカード番号。 「4980-1234-5678-9012」
IPAddress IPアドレス(IPv4、IPv6)。 「192.168.1.1」
Organization 企業名や組織名。 「株式会社〇〇」「Microsoft」

【情シス視点】PII検出機能の具体的な活用シナリオ

さて、ここからが本題です。私たち情報システム部門のセキュリティ担当として、この技術をどのように活用できるでしょうか。単なる「便利なAI」で終わらせないための、具体的なシナリオを4つご紹介します。

シナリオ1:顧客問い合わせログのマスキングとデータ活用

課題: コンタクトセンターに蓄積されるメールやチャットのログは、顧客の生の声が詰まった貴重な情報資産です。しかし、そこには氏名や電話番号などのPIIが大量に含まれており、分析や二次利用の際の個人情報漏洩リスクが常に付きまといます。

解決策: PII検出機能を活用し、分析用のデータレイクに取り込む前に、自動でPIIを検出し、マスキング(例:「鈴木様」→「[PERSON]様」)処理を施します。 これにより、個人情報を保護しつつ、サービス改善やマーケティングのための安全なデータ分析基盤を構築できます。

シナリオ2:社内コミュニケーションツールの監査強化

課題: Microsoft TeamsやSlackなどのチャットツールは業務に不可欠ですが、その利便性の高さから、悪気なく個人情報や機密情報が共有されてしまうインシデントが発生しがちです。

解決策: 定期的にチャットログをPII検出機能でスキャンし、意図しない個人情報の共有がされていないかを監査します。 もし検出された場合は、当事者へ自動でアラートを通知し、注意喚起や削除を促すといった仕組みを構築することで、内部からの情報漏洩リスクを低減できます。これは、従業員のセキュリティ意識を向上させる教育的な側面も持ち合わせています。

シナリオ3:文書電子化(OCR)後のデータクレンジング

課題: ペーパーレス化のために契約書や申込書をOCRで電子化する際、テキストデータの中に含まれるPIIの管理が煩雑になりがちです。特に、古い書類には不必要な個人情報が残っているケースも少なくありません。

解決策: OCRでテキスト化されたデータに対してPII検出機能を実行し、文書に含まれる個人情報の種類と場所を特定・タグ付けします。 これにより、個人情報保護法で定められた「保有個人データ」の正確な棚卸しが可能になり、適切なアクセス制御や保存期間管理へと繋げることができます。

シナリオ4:GDPR・改正個人情報保護法への対応支援

課題: GDPR(EU一般データ保護規則)における「忘れられる権利」や、日本の改正個人情報保護法における開示請求への対応は、データがどこに、どのように存在するかを把握していなければ迅速に行えません。

解決策: 社内の様々なデータソース(ファイルサーバー、データベース、文書管理システムなど)に対してPII検出機能を定期的に実行し、「誰の個人情報が、どこに保存されているか」をマッピングしたインデックスを作成します。 これにより、本人から開示や削除の要求があった際に、迅速かつ網羅的に対象データを特定し、コンプライアンス要件を満たすことができます。

注意点と考慮事項

この機能は非常に強力ですが、導入にあたってはいくつか考慮すべき点があります。

  • 精度の限界: AIによる検出精度は100%ではありません。文脈によっては誤検出(例:組織名を人名と判断)や検出漏れが発生する可能性も考慮し、重要な業務では人間による最終確認のプロセスを組み込むべきです。
  • コスト: Azureのサービスであるため、処理するテキスト量に応じた費用が発生します。導入前には、対象となるデータ量を見積もり、コストシミュレーションを行うことが不可欠です。
  • 処理データのセキュリティ: PII検出機能自体に機密データを渡すことになるため、Microsoftのセキュリティとコンプライアンスへの取り組みを理解しておく必要があります。データは既定で暗号化され、モデルのトレーニングには使用されないことが明記されています。

まとめ:仕組みで守る、攻めの情報セキュリティへ

今回は、Azure Cognitive Service for LanguageのPII検出機能について、特に私たち情報システム部門の視点から解説しました。

この技術は、単に個人情報を「見つける」だけのツールではありません。

  • データマスキングによる安全なデータ利活用の促進
  • コミュニケーション監査による内部リスクの低減
  • 個人情報の正確な棚卸しによるコンプライアンス強化

これらを実現し、人手による作業や性善説に頼った運用から脱却し、「仕組み」で個人情報を保護するための重要なピースです。まさに、私の信条である「ルールを変えて人と組織を動かす」を体現するテクノロジーと言えるでしょう。

セキュリティ対策というと「守り」のイメージが強いですが、このようなAIサービスを賢く活用することで、データを安全に利活用する「攻め」のセキュリティ体制を構築できるはずです。皆さんの組織でも、導入を検討してみてはいかがでしょうか。